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サロマ湖 参戦記【後編】!

 さあ、後編を始めよう。

 前編 は、60km を予定よりも1分30秒速く通過したが、勘違いからペースを乱してしまい脚にダメージを溜めてしまったところ。そして、この先は予定タイムを意識するよりも、体の感じを優先して残り40km をなるべく速く走れる様にしようと考えたところで終わりになった‥

 

 60km通過:予定-5:31:00

        実際-5:29:28

 

 残りが40km あるコトを意識した。そして、それを走り通すには脚のダメージが大き過ぎると感じていた。頑固に走れば予定のペースを70km 地点位までなら維持出来ただろうが、この場面では、ダメージが回復するまでペースダウンが必要だと判断し、勇気を持って潔くペースを落とした。そして、これまで以上にフォームに気をつけた。重心の位置、背筋に受ける反発力‥ロスの少ない効率的なフォーム‥接地時には路面と喧嘩しない様に水面を走る様なイメージで、柔らかく優しく路面を後方へ流す様に送り続けた。

 コースはサロマ湖畔から離れたり近づいたりを繰り返すが、これまで走って来た国道から左へ曲がり、サロマ湖へ真っすぐに向かい‥湖畔に沿ってしばらく進んで‥スペシャルドリンクのポイントにたどり着いた。ダメージは軽減して来たが、ペースアップ出来る程ではなかった。

 ここでトイレに寄ったが‥疲労を感じていた為か必要無かったかもしれないが、しゃがんで用を足そうとした‥が、やはり大きいモノは出なかった。休みたかったのでトイレを利用したのだ‥そうでもしなければレース中にしゃがむことは許されない‥それだけ気持ちが弱くなっていたのだが、一応、トイレでしゃがみ込む理由は他にも有った。補給でバナナを多く食べてきたせいか、お腹にガスが溜まって走り難さを感じていたのだ。変に力んでランパンを汚すのも‥どうも‥っと言う理由も有って、トイレでしゃがんだのだ。しゃがみながら予定の紙を見直した。走っていなければ数字は読めたので、目標達成は楽では無いと分かった。‥結果的にトイレでしゃがんだのは正解だった。溜まっていたガスをスッキリと出し切るコトが出来、随分と走りやすくなったのだ。

 そしてコースは「魔女の森」と呼ばれる森へと進んだ。マイナスイオンで満たされている様な気がするだけで癒されたが、脚は軽くならなかった。

 

 65km通過:予定-5:59:30

        実際-6:01:36

 

 トイレに寄ったせいもあるが、この5km は32分09秒かかっていた。そして予定の通過タイムとの差は2分を超えていた。

 残り35km で2分以上の遅れだ。トイレに寄った時から、今回の目標を諦め始めていた‥そして、さすがに疲れも感じていた。

 「もう少しペースダウンすれば、辛く無く楽しめる‥」

 脚の回転と残りの距離を考えると‥目標達成はいよいよ困難に思えた‥が‥その時、不意に、視界が白く光った‥これは気のせいだろうが、ハッとして急に頭がスカッとした感じがしたのだ。応援してくださっている方々がいるコトを思い出したからだった。

 レースのたびに様々な方から応援して頂いていたので、ここで諦めてはイケないと思った途端に、残りの距離と遅れたタイムの計算を始めていた。完全に気持ちを切り替えて、目標達成の為にここからどうすべきかを考えていたのだ!

 

 例の5km毎の通過タイムを書いた紙はウェストバッグに入れて、必要な時に出して見ていたが、65km を通過した時からはバッグにしまわずに、手に握りしめて走っていた。そして老眼のピントが合うように腕を伸ばし、時間をかけて数字を読み取ろうとした。片目を閉じて見つめていると走りながらでも数字を読み取ることが出来た。

 目標達成の為の予定とは2分の差だったが、この予定は9時間19分で計算していた。つまり、予定から2分遅れは、実際には目標タイムから1分遅れと言うコトになるのだった!

 「残り35km で1分のビハインド!」

 「イケる!」

っと、つい先程までとは全く考え方が変わっていた。

 予定では5km を28分30秒で走ることになっていたが、これなら今の脚の状態ならば走れると感じる様になっていた。が、残り35km は、ここで無理をすれば最後まで脚が持たない距離でもある。1分のビハインドはラストスパートで簡単に逆転できると考え、5km を28分30秒ペースで走る様に策を立てた。

 「魔女の森」を抜け、名物になっている屋根の上で大漁旗を振って応援してくださる方の家を通過し、斉藤商店さんの私設エイドでおしぼりをお借りして、玉葱の形をした擬宝珠(ぎぼし)=葱台(そうだい)(リンク先:Wikipedia)の橋を渡った(ここでは「葱台」が良いだろう)。

 そして70km 地点を通過。

  

 70km通過:予定-6:28:00

        実際-6:29:48

        28'12"/5km

 

 残り30km になった。このまま続ければ、ラストスパート出来るだろうと感じ、また、ラストスパート出来る様に余力を持って走らなければイケないとも考えていた。

 脚の状態を観察していた。楽し過ぎない様に、また、無理し過ぎない様に‥

 相変わらず、フォームに注意していた。今回は、疲労意外には脚にトラブルが発生していなかった。腸脛靭帯やアキレス腱が痛むことは無く、普通に超長距離を走っただけのダメージのみで済んでいた。

 

   75km通過:予定-6:56:30

        実際-6:58:31

        28'43"/5km

 

 75km を通過し5km 毎のラップタイムが落ちると、前の5km で飛ばし過ぎたのではないかと心配になった。

 「このペースは速過ぎたのか?」

 設定より、5km で13秒オーバーしてしまった。感覚的には10秒ぐらい挽回出来ている様に感じていたのに‥ショックだった‥が、ここで、再び応援してくださっている方々のコトを思すと、まだ大丈夫だと考えた。

 「1分30秒遅れても、ラストスパートで挽回できる!」

 そう、ワタクシにはスピードが有るのだ。そもそも持久的なスポーツよりも瞬発的なスポーツの方が得意なのだから、最後の100m を20秒で走れば、5km を28分30秒=5'42"/km ペースと比べ14秒取り戻せる。200m ならば28秒、300m ならば‥400m で56秒とはいかなくても、50秒近く‥45秒は取り返せるだろう‥ラスト2km でペースアップすれば‥

 コンな計算ばかりを繰り返しているうちに、今よりも遅れなければ目標は達成できるだろうと、明るい兆しを感じ始めていた。

 コースは左に曲がり、ワッカの入口へと向かい、80km 手前のスペシャルドリンクまでやって来た。

 ここでは長居はしない。50km の部に出場している選手と合流しているので、エイドステーションで立ち止まっている選手が増えていたが、いちいち立ち止まったりはしない。

 そして80km を通過。

 

 80km通過:予定-7:25:00

        実際-7:27:04

        28'33"/5km

 

 ここでも5km のラップは28'30"を超えていた。計算通りにレースが進んでいなかった。そろそろ、ペースアップしてタイムの借金を返して行かないと間に合わなくなると、気合を入れた。

 「ラスト20km!」

 ワッカに入ったが、周囲の景色はあまり眺めずに、5~6m 前のコースばかりを見て走り続けていた。風が強かったが、体が冷やされるコトは無かった‥ポンチョを捨てたコトを心配していたが大丈夫だった‥そして85km‥

 

 85km通過:予定-7:53:30

        実際-7:55:45

        28'41"/5km

 

 ここでも、タイムの借金は返せずに逆に借金は増えていた。

 「簡単に達成できない目標だから、挑戦する価値が有るのだ!」

 この状態でも気持ちは前向きだった。あと15km まで来て、目標達成の可能性が有るのだから挑戦しないと悔いが残ると思っていた。年齢的にも、コンなチャンスは最初で最後になるかもしれないとも考えていた。ここで諦めたら‥一生悔いるかもしれないのだとも‥

 大自然を満喫するハズのワッカは、ただコースだけを見つめて走るコトに集中するだけになっていた。橋を渡り、折り返して90km‥

 

 90km通過:予定-8:22:00

        実際-8:24:05

        28'19"/5km

 

 予定のタイムは9時間19分で設定されている‥残り10km を56分を切れば20分切が‥

 「イケる!」

 残り10km だったが、最後の5km はペースダウンしてもイイから、ここからの5km をシッカリとペースアップしようと走りを変えた。呼吸も激しくなって来た。

 5km で28分を切ればイイのだ。脚は回っていたので、9時間20分切りは確信出来た。焦り過ぎなければ大丈夫だと‥

  

 95km通過:予定-8:50:30

        実際-8:50:56

        26'52"/5km

 

 5km のラップが大きく上がった。呼吸は激しくなっていたが、ラスト5km は脚を回し続けられそうだと感じていた。

 もう、出し惜しみはしない。このまま走り続けて、最後にラストスパートをするだけで良い。苦しかったが辛くは無かった。ワッカの出口で急な登りを終えた時、例えペースダウンしても9時間20分を切れると計算できた。

 ワッカを出たところで、急ににわか雨が降り出したが、もう体の冷えを心配するコトは無かった。シャツに雨が浸み込んで来たが、むしろそのコトで闘志が更に湧き立てられた。

 コースは直線の道路へと進んだ。もう、全部を出すだけだった‥ただただスピードを上げることに専念していたが‥ここでも応援してくださった方々を思い出した‥苦しかったが幸せで嬉しくて‥またしても涙を流していた。

 最近のレースでは、感激して涙を流す場面が増えてきた。たぶん、年齢のせいだろうが、若い頃よりもレースに集中しているからとも思える。気のせいだろうか?

 最後に右に曲がるとすぐにフィニッシュゲートが見えた。そして大きな時計も目に入った。

 「9:17:‥」

 脱帽して一気にフィニッシュゲートを駆け抜けた。もう、涙は流れていなかった‥

 回れ右、礼。

 

 ラップタイムだけを見ても、ワクワク出来る後半の追い上げだった。数字には表せないが、そこには応援して頂いた方々のパワーと皆さんへの感謝の思いが、ワタクシの背中を押していたのだった。

 53歳で100kmウルトラマラソンの自己ベストを更新し、サロマンブルメンバーの資格を得た男のレースはこれで終わりだ。

 最初に書いた通り、この感激をどう語っても第三者には伝えられないことは分かっている。けれども、コレを語らずにはいられなかった男の気持ちも分かって頂きたい。

 

 最後に、ワタクシの文才の無さを嘆いているところだが、コンな乱文を最後まで読んで頂いた方がいらっしゃれば、本当に嬉しく思います。

 有り難うございました。

 また、いつも通りではありますが、レースを支えて下さった大会関係者の方々。応援して頂いた方々。一緒に走った選手の皆様に、心からお礼を申し上げたいと思います。

 本当に有り難うございました。

 

 それでは、さらばじゃ!”∖(^_^*) 

≪ 完 ≫

 

 

サロマ湖100kmウルトラマラソン 参戦記 < > "サロマ"の写真!

 

 

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コメント: 8
  • #1

    ベガ (水曜日, 04 7月 2018 00:17)

    応援している方もワクワクドキドキの100キロでした。感動を頂きありがとうございました。そしてお疲れさまでした。

  • #2

    栗田浩三 (水曜日, 04 7月 2018 00:23)

    ベガさん、
     早速のコメント有り難うございます。お陰様で、目標を達成することが出来ました。重ね重ねお礼申し上げます。
      m(__)m

  • #3

    いぶてつ (水曜日, 04 7月 2018 07:19)

    お疲れ様でした。初コメントです。
    53歳にして自己ベスト更新、それも9:20切りでサロマンブルーとは本当に恐れ入ります。最後まで諦めず、気持ちを切らさずに目標を持ち続けることこそが、長時間に渡るレースを制する原動力となるのだと改めて気付かされました。私は47歳の今年4月の100kでsub10をしたばかりですが、この記事を読んで、まだまだいけるかも、と闘志が湧きました。栗田さんの走力と精神力には遠く及びませんが、今後の目標に向けて頑張ろうと思います。ありがとうございました。

  • #4

    栗田浩三 (水曜日, 04 7月 2018 07:38)

    いぶてつ さん、
     素敵なコメント有り難うございます。嬉しいです。
     きっと、いぶてつ さんの目標は達成できると思います。楽では無いでしょうし、何度か失敗するかもしれませんが、挑戦する価値は有ると思います。人それぞれ価値観は違いますが、一生懸命になるコトは結果とは関係無しに素晴らしいコトだと思います。
     他にも頑張っているランナーは大勢いるでしょう。知らない誰かでも、みんなどこかでつながっていると思って頑張りましょう!
      (^◇^)

  • #5

    韋駄天丼 (金曜日, 06 7月 2018 19:42)

    自己ベストとサロマンブルーのダブル達成、おめでとうございます。100kmも走って、予定との差が2分程度という精度にはビックリです。フルマラソンでも5分以上予定よりも遅れているので、レベルの差を感じました。諦めかけても気持ちを切り替えるメンタルにもレベルの差を感じました。
    サロマはいつか挑戦したいと思いますが、その時の参考にしたいと思います。

  • #6

    栗田浩三 (土曜日, 07 7月 2018 05:22)

    韋駄天丼さん、
     コメント有り難うございます。
     自分の実力が正確に分かれば、予定のタイムと同じぐらいで走れる様になりますヨ。練習通を重ねて無理の無いペースで設定ることと、少し余裕のあるペースで設定して、余裕が有ったら最後にペースアップする様に計画するのが無難だと思います。
     "サロマ湖"はウルトラの草分け、ウルトラランナーのメッカと位置付けられてもいます。そんな大会ですから、出場するだけでも有り難味を感じます。是非、挑戦してください。

  • #7

    サロマン「5」 (火曜日, 17 7月 2018 01:55)

    初めまして。ウルトラにとりつかれたアラフィフ・ランナーです。
     「文才の無さを嘆いている」なんてことはないです。臨場感がたっぷりと伝わってきました。
     このブログを読みながら、「地上の星」(中島みゆき)が頭に響いていました。「プロジェクトX」で取り上げてもらいたいほどのドラマを感じました。
     一度諦めかけてからのチャレンジ精神は、ランナーの鑑です。冷静にレース展開して自己ベストを更新するなんて、ドラマティック過ぎます。
     サロマンブルーと自己ベスト更新、本当におめでとうございます。
     勇気を頂きました。有り難うございます。

  • #8

    栗田浩三 (火曜日, 17 7月 2018 07:02)

    サロマン「5」さん、
     身に余るお褒めのコメント、有り難うございます。
      m(__)m
     確かに、終盤はドキドキするスリリングな展開になりました。目標を達成できた時は、本当に物語の主人公になった様な気分でした。
     プロジェクトXは無理ですが、ここで主人公として大会参戦記を書いているだけでも嬉しく思っています。
     「サロマン5」さん、ってコトはあと5回でサロマンブルーってコトでしょうか。アラフィフでまだお若いので、これからも続けて頑張ってください。
      (*^▽^*)